ねこやのこと

2017年夏アニメの『異世界食堂』が気に入っています。
騎士や魔法が存在するファンタジー世界のあちこちに7日に一度土曜の日にだけ現れる扉がある。その扉の向こうはなぜかこっちの世界の洋食屋につながっていて、今日もまた獣人やエルフ、大賢者といった異世界の住人が店のテーブルにつき、見たこともない料理に舌鼓を打つ──といった話です。
1回で2話ずつ詰め込まれたストーリー構成で客たちの抱える屈託が出される料理で癒されるというのはありがちといえばありがちな展開なのですが、ほっこりさせられるものがあります。出される料理はオムライスやロースカツ、チキンカレーにフルーツパフェとありふれているけど夜中に見るとむしょうに食べたくなるものばかり。
その洋食屋の名は「洋食のねこや」。ねこの絵がついた看板が目印です。店の料理に魅了された客たちは7日一度、扉が現れるのを心待ちにして、足繁く店に通うようになります。けど、毎回毎回、お気に入りの一品しか頼まず、その料理こそが店一番の料理だと信じて疑わないあたりはご愛嬌ですけど

ふと思ったのですが、こういった店って現実にもあるんじゃないかしらん。すっごく旨い料理を出すけれど店主の気まぐれで店が開いてたり閉まってたりとか。その料理にありつけるのには運が絡むとなると料理の味も3割増しくらいになりそう。
なんてラッキーなんだ。たまたま前を通ったら今日は店の看板に灯が入っている──となれば、迷うことなくその木の扉を押しちゃいそうです。
という例は極端だとしてもたとえば、手に入りにくい食材を使う料理でそれが入ったときだけ臨時に店のメニューに加わるといったことならありそうです。
関西にいた頃、通い慣らした焼き鳥屋に「下心」という串物がありました。なんだかいかがわしいネーミングですが心臓の下の部位なのでこの名前。店主のシャレが利いています。名前はともかくこの串はむちゃくちゃ美味しいので、あるといの一番に頼みます。
けど、鶏の心臓の下の小さな肉ですから一羽から採れる量は本当にちょびっとなのです。この串が店に出されるのはおよそ3ヶ月に一度。店のメニューに登場してから品切れになるまでは長くて1週間くらい。よほど、頻繁に通うか運が強くなければありつけない一品なのです。

あの串を思うと異世界の住人たちが次の土曜日を心待ちにする心情がちょっとわかる気がするな。案外、この物語の作者にも焼き鳥屋の「下心」のように出会うには運が必要な料理を心待ちにした経験があるんじゃないのかなと想像を膨らませたりしています。
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恋と覚悟

毎週楽しみにしていた「月がきれい」が最終回を迎えました。
物語は美しく畳まれ、多幸感溢れるラストだったと思います。ふり返ってみると、監督を初めとする製作スタッフは思春期の恋愛について相当研究し、議論したんだろうなと思える演出が随所に溢れていたように思います。
例えば、ヒロインの親友が主人公を好きになってしまったと告白する場面。困惑するヒロインは姉に助言を求めます。
「わたしだったら、即絶交する」
言い放つ姉にヒロインはたじろぎ、それはできないと拒みます。恋は大切だけど友情も大事にしたいと反論するんですね。一見、姉の方が暴論でヒロインの優しさが垣間見えるシーンに見えなくもないですが、よく考えると姉の方が正論なんですよね。要は恋と友情どちらか一つ選べと言われたらどちらを選ぶかという問題です。恋を守りたいのならたとえ相手が親友でも火種は断たなければならないということを姉は経験から知っているのです。一方、ヒロインの主張は優しさというより優柔不断なわがままです。案の定、その火種は後々くすぶり続けて禍根を残します。
そして、クライマックス。楽しみにしていたお祭りの夜、ヒロインは部活の部長と一緒にいるところを主人公に目撃されてしまいます。元々はゴミ出しじゃんけんに二人が負けてごみを捨てに来ていただけなのですが、その後芋モチなど買い食いしながら雑談しているうちに部長に想いを告げられたその場面に主人公は出くわしてしまうのです。主人公の不機嫌はマックス、邪険にされてお祭の雑踏に一人取り残されたヒロインは泣き出してしまいます。
ネットのレビューを見ると「ヒロインが可哀そう。何も悪くないのに」とか「主人公は心が狭すぎだろう。ま、中学生だからしかたないか」という意見が散見されたのですが僕はそれはどうだろうと、疑問に思いました。この一件は明らかにヒロインの方が悪いと思うのです。恋愛未経験だから仕方がないけど、脇が甘過ぎる。誰かと付き合いだしたのなら、他の異性と二人でいるなんてシチュエーションになっちゃだめです。ましてや、お祭りのようにどこで誰が見ているかわからない場所ならなおさらのこと。ゴミを出したらさっさと部活の面々と合流してしまうべきなのに、芋モチなんか食べてまんざらでもない顔して部長と雑談なんてしている。だから、部長に告白する隙を与えちゃったんだと思います。
恋をして誰かと付き合いだすのには覚悟が要ります。それまでの人間関係、友人を喪うかもしれないという覚悟、それは恋の成就と引き換えに、時には断腸の思いを以て支払わなければならない対価なのではないでしょうか?
制作者はそのあたりの恋の駆け引きをも研究し尽くした上で、恋愛未経験ゆえの未熟さというキャラクター設定を主人公とヒロインに付与しました。見事に計算しつくされた演出プランだったと思います。

脱テンプレート

マイブームの深夜アニメ「月がきれい」も後半に突入。以前、演出が視聴者の予想の半歩先を先行して秀逸とブログに書きましたが、それだけでなくストーリー展開もラブストーリーのお約束から敢えて逸脱していて新鮮です。
既成のラブストーリー、特にラブコメと呼ばれるジャンルのストーリー展開は主人公二人がお互いを意識し合っているんだけど何らかの理由で恋愛に消極的であったり(ふられたトラウマとか男嫌いとかバリエーションはいろいろ)、優柔不断だったりして恋愛の進展にブレーキがかかる仕掛けになっているのが王道です。で、進展しないことに視聴者を散々やきもきさせておいてハプニングを起こして一気に進展……と見せかけておいて寸止め。基本この停滞⇒進展⇒寸止めコンボの繰り返しで視聴者をけん引していっていました。けどね、いい加減手垢が付いたテンプレートになっちゃっているので視聴者も展開が読めちゃうんですよ。
恋愛が足踏みしてるなと思えば、「そろそろラッキーなアクシデントが起きて二人っきりになるんじゃないかしらん」と考えたり、「キタキタキター、けどどうせキスまでいかないんでしょ」と冷めた目で見てしまったり。
やった者勝ちのコロンブスの卵的な発想なのですが、「月がきれい」のストーリー展開はこのテンプレートから逸脱するところがキモになっています。まず、主人公二人がお互いに相手のことを好きだときちんと意思表示をする。そして特に主人公小太郎はここぞというポイントで臆せず前に踏み出す。今週(第七回)でもヒロインの茜がフリーだと思い込んで遊園地でバックレた陸上部の部長の前に立ち、「彼女、俺達付き合ってるから」と言い切って茜を取り戻しました。この積極性と勇敢さは既成のアニメやラノベの主人公が持ち合わせていなかったもので、とても新鮮に見え、視聴者をけん引していく起爆剤になっています。
既成のテンプレートでは恋愛の進展役はハプニングやアクシデントあるいは友人のアシストと言った他力本願のものが多く、主人公はどちらかというと流されっぱなしの優柔不断なキャラでした(良くも悪くもなるようになるさと考えている節がありました)。時にあまりにご都合主義な展開があっても視聴者は「ま、所詮お話だから」と苦笑するのがお約束でした。
対して、今作は偶然やチャンスをあてにせず主人公は自分の意思で恋愛を前に進めていきます。これには「待っていたって恋は成就しないよ。好きな人がいるなら自分の意思で前に踏み出せ」という監督のメッセージが込められている気がします。で、そのメッセージはとてもリアルだと思うんですよね。現実の恋愛ではラブコメのようなハプニングはそうそう起きるわけもなく、自ら勇気を振り絞って手を伸ばし勝ち取るものですから。
あと、5話。ますます目が離せない作品です。

古びない芸能

とある落語家がこんなことを問われたそうです。
「古典落語ってのは今の時代に合わない、古い噺なんじゃないですかね?」
すると彼はこう答えました。
「古典ってのは古いって意味じゃない、古びないって意味でさ。だから、江戸の昔に作られて今でも生き残ってる」
一片の真理だと思います。けど、その古びないものに固執してきたことが落語の衰退の一因だったんじゃないかとも思うんですよね。
昨年オンエアされた「昭和元禄落語心中」を鑑賞してそんなことを思いました。戦前から戦後復興期にかけて若手のホープとして活躍した二人の噺家を軸に物語は展開します。方や豪放磊落で親分肌な芸風の助六。彼は実生活が落語の登場人物そのもののような男でなりは汚い、酒癖が悪い、女にはだらしないし、師匠連とはしょっちゅう衝突するという困ったちゃん。けど、高座に上がると客たちを笑いの渦に巻き込んで一番の喝采を浴びる天才肌。方やその助六のしりぬぐいばかりさせられている生真面目な菊比古。彼は日々、芸の研鑽に余念がないがその陰気な顔立ちと張れない声が災いして助六に比べると人気はいま一つ。けれど、艶っぽい女性の演技に開眼して、廓噺、艶笑噺で頭角を現します。
戦後復興が進む中、対照的な二人を悩ませるのは一つ。落語の行く末でした。古典芸能を究めようとする菊比古に対して、時代に合わせて客の喜ぶ噺を模索する助六。二人は反目し合うのではなく、たがいの主張を認め合いながら10年後、50年後、100年後の寄席をどうやったら守っていけるのか、残していけるのかを熱く語り合います。

僕は高校の頃、古典落語にハマりまして、ネタ本などずいぶん読み漁りました。受験生という制約があって寄席に行くなんてことはできませんでしたが、テレビの落語特番なども観ました。あの頃、桂三枝は創作落語に力を入れていたのですが、正直僕はあれが嫌いでした。舞台を現代にしてしまうとどうにも噺が浮ついて薄っぺらく聞こえてしまう(師匠すみません)。見たこともない江戸の町が舞台だからこそ落語という話芸は活きてくるんじゃないのかというのが当時の持論だったのですが、今振り返ってみると聞いたことのあるネタの古典は耳に心地よく、聞いたこともない新作には拒否反応を起こすただの懐古趣味だったのかもしれないと思ったりもします。
僕自身は噺ができるわけでもなし、一人の客として応援することしかできない身ですが、落語がこれからも多くの人に愛されるよう願ってやみません。当世人気を博している深夜アニメの中でも上々の評判を獲った本作。これを機会に落語に対する認知が広まって、一つ寄席に行ってみようかしらんという人が増える効果を期待してやみません。

半歩先行く演出

2017年 春アニメの『月がきれい』がマイブーム。中学三年生の日常と恋愛を描いたお話なのですが、主人公二人の初々しい仕草や表情が見ていてむずがゆくなるくらい甘酸っぱい作品です。ネットの評判も上々のようでファンとしては嬉しい限り。
で、前の木曜日に3話が放映されたのですが見ていてふと気づいたことがあります。
「この演出って、君の名は。に似ている」

以下、昨年大ヒットした君の名は。のネタバレをいくばくか含みますのでご注意を。

あの作品が多くの観客の心をつかんだ理由はいくつもあると思うのですが、その一つは演出の斬新さじゃないでしょうか? 今我々が目にする映画やドラマの大半は三幕構成と呼ばれる演劇理論に裏打ちされていて開始から大よそ何分経過したらどういったストーリー展開がやってくるか読めるのです。例えば水戸黄門では35分を過ぎたあたりで悪代官と悪徳商人の密談をお銀さんが盗み聞きする。40分頃に立ち回りがあって42分に印籠が取り出される。45分くらいでストーリーのまとめ(別れの挨拶など)があって、ラスト48分で道を歩いて行く一行のカットと分刻みのタイムチャートになっているのを多くの人が知っています。
ま、水戸黄門の場合はそのお約束を楽しみたい視聴者が多くいるようなのであれで良いと思うのですが、単発の映画やドラマの場合、三幕構成通りの演出というのは目の肥えた観客をシラケさせます。
「主人公と反目しあっていたヒロインがそろそろデレるぞ」だとか「そろそろヒロインが攫われて主人公絶体絶命が来るぞ」だとか読めちゃうんですよね。他にも理由はあるのでしょうが、ハリウッドのアクション映画が昔ほどもてはやされなくなったのも、2時間物のサスペンス劇場やワイド劇場が衰退したのもひとえにテンプレのような演出に観客が飽きたからじゃないかと思うのです。
君の名は。の演出が凄かったのは「そろそろこういう展開が来るんじゃないかな?」という思いが観客の頭をよぎる(であろう)直前にその展開を持って来ていたこと。観客が身構える前に大きな衝撃(流星による大災害等)がやってくるので心臓がひやっとなるのです。びっくりして涙が出るのです。そして何よりこの手法はテンポが良くて観客を飽きさせない。三幕構成の演出に慣れている客であればあるほどこれは効きます。
で、月がきれいのネタバレ。3話ラストシーン
主人公モノローグ「I love you.を月がきれいと訳したのは太宰治だったっけ、それとも夏目漱石だったけ?」(視聴者「こいつ、ヒロインに「月がきれい」とか言ってコクる気か?)
主人公「あの……つき」(視聴者「きたきたきた。いや、ぜってえそれ通じないから止めとけ」)
ヒロイン「え、月?」といって空を見上げる「ほんとだ。月、きれい」
(視聴者「うわ、先に言われたし(笑)」
主人公「つき……合って」(視聴者「ちょちょちょちょっと待てぃ。まだ三話だぞ」)
ラブコメでは最終回で主人公がヒロインに告白するのが言わばお約束。それまでにも何度もトライしようとするも、邪魔が入ったり、主人公がヘタレだったりで叶わないのもお約束。なので、多くの視聴者が「どうせ、ギリギリまで盛り上げて告白キャンセルでしょ」と高を括っていたと思うのです。まだ三話だしと弛緩しまくっているところにど直球の告白。君の名は。の演出にも似た観客の予想の半歩先を行く演出に目が離せません。



プロフィール

choal29

Author:choal29
酒と料理をこよなく愛するシステムエンジニアです。
食卓応援サイト「Gの食卓」を運営しています。
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