頂を目指す

例えばビルの前に立っていてそのビルの10階に行きたいと考えたとします。
えいっ、という掛け声もろともスーパーマンみたいに10階まで飛べたら楽ちんでしょうね。けど、残念ながらクリプトン星生まれでない人類にそんなことはできません。
もし、ビルにエレベーターが付いてなかったら、階段を上がっていくしかないんですね。最初の一歩で上がれるのは1段分。しょぼい段差です。2歩で2段目、3歩で3段目、4歩で4段目。それでようやく1メートルほど高い所に辿り着いたといったところでしょうか。それでもね。それを続けていればいつかは2階に辿り着けます。更に続けていけば3階、4階……。いずれ10階に辿り着けるのです。
登山も同じこと。どんな高名な登山家でも最初の一歩は一歩でしかありません。凡人と彼の違いは次の一歩を出し続けていけるかどうかだけ。たったそれだけが頂に辿り着くかどうかを分けるのです。

ところが世の中にはそんな登山家をも凌ぐ鋼の精神力を持った創作者と呼ばれる人たちがいます。何しろ彼らは頂のない山を生涯上り続けるのですから。不世出と呼ばれる映画や小説の名作がもてはやされることはしばしばあります。けれど、その作品を超える作品がその後、世に出ないということは決してないんですよね。それどころか、それを超える作品を同じ創作者が世に出すことだってあるのです。巨匠ともてはやされる彼らの心情を慮ると身が震えます。今作で自分の全てを出し切ると心に決めて、最後の1行まで全身全霊を込めて書き終えて、ふと周りを見渡すと自分は頂になど立っていない。見上げれば頂は雲を抱いて遥か上方にそびえている。溜息をついてまたペンを執り次の一歩を踏み出す。
それが一生続いて行くのです。創作者の業の深さとはそういうところにあるのではないでしょうか? それでもね、山を歩いていると綺麗な花を見ることもあれば川の冷え冷えとした水でのどを潤すこともある。それは、掛け声一つでビルの10階まで飛んで行ってしまうクリプトン星人には決して味わうことができないものなのです。だからまた一歩を踏み出す。ありもしない頂を目指して、業が深いと感じる同じ心で、それはなんてすばらしい生涯だろうとも思ってしまうのです。
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ネタ帳

もし、広辞苑が作家になったら文豪になれるか?

何をふざけたことをと思うかもしれませんが、今日日の小説、特にラノベならこの程度の擬人化は普通にありそうな気がします。
ある日、気が付くと僕はベッドの上で目覚めた。自分が何者でどうやって生きて来たのかわからない。頭の中にあるのは言葉だけ、言葉、言葉、言葉、24万に及ぶ膨大な語彙が渦巻く。僕は背広に袖を通すとマンションの部屋を出てみた……
みたいな始まり方をして、ご都合主義かよといわれようが、出版社の美人編集者と巡り合う強引な展開が待っているわけです。果たして、語彙力は豊富だけど人生経験が全くない「僕」は小説家になれるのか? みたいな。

唐突な書き出しですみません。小説のネタになりそうなことを思いついた時、忘れないようにメモしておくネタ帳というのを僕は持っています。このブログの冒頭1行は夕べ書いた最新のネタ。他にもこんなのがあります。

社畜のバカンス。社畜が一か月の休暇をもらってしまったらどう過ごすか?

SNSのニュースで有休休暇が取れないという記事が投稿されると、自虐的なコメントが並びますよね。「夢のまた夢」とか「人が少なすぎる」とか。中には「取らせろや」みたいに荒々しいコメントもあったりします。そんなコメントをつぶやいている人がある日突然、「一か月休んで良し」って休暇を与えられてしまったら果たして有意義にヴァカンスを楽しむことができるのか? これは休暇を取ることに不慣れな社畜青年の汗と涙の休日奮闘記である──みたいな。

読書や映画鑑賞の思い出リセット屋(初見に戻します)

シャッター商店街の奥にある見るからに怪しげな古書店。そこの店主に金を払って依頼すれば読書や映画の記憶を消してもらえるとか。まっさらになった頭でもう一度あの感動を味わいたいそんな人々が今日も店を訪れる。これなんか、リセットしたがる動機に意外なものを設定するとミステリーになりそうです。

無声映画でしかありえないトリックってなんだろ?

音がないからこそ成立する観客をだます仕掛けだとか。マスクを被った人間が誰かはトーキーならすぐにわかっちゃうけど、字幕オンリーならわからない。一人二役なんかを仕掛けられそうですね。

多くの人が日常生活の中で「はてな?」と思うことって多々あると思うのです。ただ、暮らしていくことに取り紛れてすぐに忘れてしまうのが常。そんな「はてな?」を書き溜めていけば誰もがストーリーテラーになれる気がするのですがいかがでしょう?

作家でごはん

昔、ライトノベル作法研究所というサイトにお世話になったことがあります。サイト名だけ見るとオタクっぽい印象がありますが、わりとガチにエンタメ系の小説を構築する方法論が丁寧に紹介されていて非常に勉強になりました。このサイトの1コーナーに小説の投稿サイトのリンク集があったのですが、その中に「作家でごはん」というサイトが紹介されていました。
「本気で作家を目指す人たちが集まり、意見を交換するためのサイト」とあって、数ある投稿サイトの中でもガチの作家の卵(一日の多くの時間を執筆に費やしているような人たち)やセミプロが集まってくることで定評のあるサイトのようでした。投稿コーナーは鍛錬場と呼ばれて、ここに投稿すればそういった人達から書評を投げてもらえるという仕組み。但し、「初めて小説を書いてみました、お手柔らかにね」なんて作品を投稿しようものなら「ここは貴様のような者が来るところではない」と袋叩きに遭うのは必至、そうとうな自信作でもそれこそ重箱の隅をつつくような辛辣な意見が並ぶよと恐ろし気な但し書きがしてありました。
根が臆病者なので存在は知っていながら長らく足が向かなかったサイトなのですが、満を持して仕上げた六百数十枚の短編連作小説が公募の一次選考に落っこちてしまったのをきっかけに、その鍛錬場を覗いてみることにしたのです。おこがましい言い方ですが、その小説は知人の間では評判が良く「早く続きを読ませろ」と催促されながらせっせと書いたこともあり、審査に納得がいってなかったのですね。何が悪かったのか知りたいし、そのためには罵声を浴びるくらい屁でもないと自分を鼓舞して第一話を投稿してみました。
投稿して最初に付いた書評は好評で、「なんだ噂と違ってちょろいじゃん」などと正直鼻で笑いたい気分になりました。が、……。時を置かずして来るわ来るわ。酷評のオンパレード。曰く
・視点が定まらないから悪酔いしそうになる。
・居酒屋の人情噺、コメディ、ミステリーなどジャンルを詰め込み過ぎて闇鍋を食わされている気分になる。
・ミステリーと銘打つならくだくだと料理の描写など書いてるんじゃねぇよ。謎解きに移行するまでに寝そうになった。
などなど。もちろん、好意的な書評も戴いて「続きを楽しみにしてます」なんて嬉しい言葉も戴けたのですが、全体では半々くらいだったかな。それでも、噂に違わず感想文のようなコメントは皆無でどのコメントも具体的で、もっとこうした方が良いという改善案も付いていて一定レベル以上の書き手、読み手による書評でした。
1度投稿すると、2週間間を空けないといけないルールなので、全7話を投稿し終えるまでには3か月ほどを要したのですが、回を重ねるうちにわかってきたことがあります。僕の小説は小説の体をなしてはいるけれど、商業小説になっていない。ストーリー展開にしろ、キャラの構築にしろ、ただなんとなく、それなりにやっているだけでアマチュアの域を出ていないのだと気付きました。
中に非常に感情的なコメントを書かれる方がいらっしゃって「僕はくだくだしい料理の描写なんか読みたくない。キャラクタも似たり寄ったりでまるで立ってない。もっとラノベ的なキャラをなぜ登場させないの」と言った調子。平たくいうと「僕が読みたくないものは書くな。僕が読みたい物だけ書け」と言っているようでした。コメントの文章は稚拙で誤字脱字だらけ、恐らくは二十代、下手すると十代の経験の浅い書き手という印象を受けました。
最初は僕もカツンと来て、だったら読むなよ。あんたのためだけに書いてるんじゃねぇよ。と思ったものです。でもね、回を重ねるうちにこの人はどうして、怒ってるんだろう? なんで、こう感じたんだろう。僕の小説のどこに反発を覚えさせる要素があったんだろう? と思うようになりました。で、彼のコメントを徹底的に分析して、小説を読み直してみたんです。すると、見えてきました。僕が読ませたいと思っていることと、この読者が読みたいと思っていることのギャップが。その時、僕は完成品の短編連作を投稿してしまったことを後悔しました。短編連作は各話が独立した物語ではなく密接に連携し合っている構成になっています。彼のコメントを反映してあげたかったけど、書き直してしまうとそれまでに投稿した話、これから投稿する話との整合が取れなくなってしまう。めげずにコメントを寄せてくれる彼に申し訳ないと思いながら(実際コメントのお返事にそういった言い訳も書きながら)、僕は最後まで投稿しました。
お褒め戴いたコメントは非常に励みになりましたし、勇気がもらえました。けれど、一番勉強させてもらえたのは辛辣な批評コメントだったと思います。この投稿を通じて僕は生まれて初めて身びいき抜きの赤の他人さまの意見に触れました。そして、彼らが僕の小説に何を求めているかの片りんを掴むことができました。
あれから、ラジオドラマの原作公募で人生初の優秀賞(202作品中次点)を戴いたり、応募数が最大規模の地方文学賞の一次選考を抜けたり(千数十作から選ばれた五十作に残りました)、まだまだ途上ですが、少しずつではありますが前に進めている気がします。もし、作家でごはんというサイトを訪れ自作を投稿しなかったら僕は今でも生の読者が何を求めているか知らないまま無為に原稿用紙を埋めていたに違いないと思います。縁は異なものと申しますが、かのサイトとコメントを寄せて下さった全ての方に感謝を込めて。

スマートな表現

小説でもドラマでも説明的な表現というのは見るものをシラケさせます。
たとえば、主人公とヒロインが新婚ほやほやだということを説明するのに
「楽しかった。ハネムーンがハワイなんて最高だわ」
とヒロインにしゃべらせたとしたらどうでしょう? このセリフを言われている主人公はそのハワイにハネムーンで行って来たばかりの当事者です。今更、「ハネムーン」だとか「ハワイ」だとか言われるのは極めて不自然でそれが観客をシラケさせる原因になります。
巨匠ヒッチコック監督はこの状況説明をたった2行のト書きで実現しました。

窓際にバラを活けた花瓶がある。
花瓶には結婚おめでとうと書かれたカードが立てかけてある。

シーンにして恐らく3秒、カードのアップがあったとしても5秒で全ての説明が付きます。バラの鮮度から見て活けられて間がないこと、結婚おめでとうなんて書かれたカードを飾るのは新婚さんしかいないこと。その2点から二人が式を挙げて間がないことが自然に理解できます。スマートな表現というのは総じて端的で自然なものじゃないかなと僕は思います。それは演出だけでなく演技にも言えることで、例えば悲しい場面で泣いて見せるというのは時に観客をシラケさせたりドン引きさせたりするリスクを負います。なぜなら、現実の世界ではいい大人が悲しがって泣くことはまれだから。大抵の場合はその悲しみを飲み込んで泣くまいとして取り繕おうとするから。ある人は気丈に振舞ったり、努めて明るくはしゃいだり、ある種挙動不審に陥ったり。それでも涙は見せない。その方がぐっとくる場合は多いのです。
だって、その状況が主人公に悲しみを与えていることなんて観客はみんな知っているから。その痛々しいまでの振舞に、「もう、泣いちゃえば良いのに」と思いながら、それでも涙を見せまいとする主人公に観客は共感するものなのです。
ただ、こういう現実に近い自然な表現が求められるようになったのは日本では割と最近のように思います。少なくとも戦後すぐの頃の映画では子役は大人が求める頑是ない子供像をストレートに演じることがもてはやされてたんじゃないかな。たとえば、あけすけなセリフをはきはきと口にさせることで無邪気を演出したり、悲しい場面ではなりふり構わず大泣きさせたりしていたきらいがありました。それは恐らく、日本には型を重んじる歌舞伎という演劇文化があってその延長線上に映画の文化が築かれたことに由来するのではないでしょうか? それが時代が下るにしたがって西洋風の演出、演技手法が取り入れられるようになっていった気がします。僕は決して歌舞伎の型を否定するつもりはありませんが、どちらが洗練された演出かと問われれば今風の自然で端的な演出の方かなと思う派です。

無限ループって……

「何言ってんスか絵麻先輩。怖いのは脚本家になれないことです!」
アニメSHIROBAKO、脚本家志望のりーちゃんのセリフです。自分が書いた台本を声優さんに読まれると思うと怖くならない? と訊かれた時の返事なのですが、物つくりを目指す人間なら肝に銘じないといけない一言だよなぁと思います。
小説家や脚本家なんていうものはなりたいと思った瞬間になってるものだという人がいます。ただ、それで食べられるかどうかは別の話で、食べていくためには寝食を惜しんで努力する必要があります。その努力は、したからといってなれる保証はどこにもない類の努力なのでかなりメンタルがタフでないとやっていけません。けど、メンタルがタフだからと言ってその努力が報われる保証はない。無限ループって怖くね? とでも言いたくなりますよね。
何度自分を焚きつけても執筆から逃げようとしてしまう自分の戒めとして自分宛てにひとこと。

日々の雑事に忙殺されて書かない日が続いている。今日も明日も、「ああ、また書けなかった」と嘆く日々は一見無限ループに見えるかもしれない。でもそれは幻想です。そんな生活が無限に続くわけがない。やがて老いて朽ちれば無限に見えたループは途切れるのは知れ切ったこと。そこんとこ肝に銘じなきゃダメでしょ。ちょっと、セルフ叱責モードのブログでした。
プロフィール

choal29

Author:choal29
酒と料理をこよなく愛するシステムエンジニアです。
食卓応援サイト「Gの食卓」を運営しています。
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