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守破離

茶道や武道、それから芸事にも通じる言葉で『守破離』というのがあります。これはその道を目指す者が精進する上で辿るべき道筋を表した言葉で、
『守』:型を守る
『破』:型を破る
『離』:型から離れる
様を指します。武道でも芸事でもそうですが初心者が学びやすいように型と言うものが用意されています。
まずはきちんと型を守り、型通りにできるようになりなさい。
次に自分の型を模索し従来の型を破りなさい。
最後は従来の型から離れて自分なりの道を究めていきなさい。
といったほどの意味です。
でも、初心者の中にはいきなり型を破ろうとする人がいるのです。

「ふん、そんな古い型に縛られた道なんざまっぴらだい。俺はもっと自由に生きるんだ」

セリフは物語の主人公めいていて格好良いですけど、まあ失敗します。武道だと特に分かり易いと思うのですが、村の中で棒っきれを振り回していた悪ガキが「日本一の剣豪になる」と言っていきなり大きな町の道場に道場破りを仕掛けるようなものですから。師匠からみっちり型を仕込まれて何年も修行を積んでいる門下生にかなうはずもありません。もし、勝てたとしたらそれはもう天賦の才能、新しい流派の開祖になるような特別な人です。
ところが、勝ち負けがはっきり分かる武道だと自分の愚かさに早々に気付くことができるのですが、芸事になるといささか厄介です。勝ったか負けたかの審判を下されても下された側は未熟ですから納得いかないことが往々にしてあるのです。

「あいつは型に縛られた年寄りだから俺の芸の新しさについてこれないんだ」

こんなことを考え出すとこじらせますね。酷い時は我流を何十年も通してもモノにならず、その道を始めていくらもいかない人に追い越されるなんてこともざらにあります。
小説を書く人の中には『純文学』というものを特別視する人がいるのですが、そう言った人は往々にしてエンターテイメント、特にライトノベルのようにさらっと読めるジャンルを蔑視する傾向にあります。曰く

「文学は美しい日本語、正しい日本語で綴られるべきである」
「一度読んで『ああ、面白かった』といってBOOKOFFに売り飛ばすような本を僕は書きたくない。手元に置いて何度でも読み返すような作品を書きたいんだ」
「あれはただのテンプレートをなぞっただけの薄っぺらい内容の作品じゃないか」

一見正論に見えるこれらの意見はある一つのことが欠如しています。

この発言者は『型』を守ることを経験していない。

ということです。いえ、守ること以前に恐らく『型』を知ろうとさえしていないのだと思います。

型を知る者は「美しい日本語、正しい日本語」に拘ったりしません。「(読者にとって)分かり易い日本語」に拘ります。
一度読んでBOOKOFFに売り飛ばせる作品は少なくともその買値が付く作品だということに気付いていません。
テンプレート(型)をトレースしただけと言いますが、トレースできる技能が一朝一夕に身に付くわけではないことを知っていません。なぜならばテンプレートをトレースしようとしたことがないからです。

剣道や空手なら町に道場があってそこに通うことで型を学ぶことができます。でも、文芸の世界ではなかなかそういう道場や学校がなくて我流になりがちでした。近年はインターネットの発達でそういった型やシナリオ理論を指南するサイトも多数登場する幸せな時代が到来しています。それでもなお、型に沿ったアプローチを蔑視し、拒み、我流を通そうとする人を掲示板で見かけるのは残念に思います。もったいないと思います。
そう言った人達の想いの底流には型に沿うと自作のオリジナリティがなくなり凡百の無価値な作品を書いてしまうのではないかという危惧があるのではないかと僕は想像するのですがその想いは根本的に間違っています。
一本でも駄作や凡作を書きたくないなんて考えている人が小説家になれるわけがありません。小説家たらんとするなら生涯に何百本も何千本もの物語を書くくらいの気概があって当たり前です(物理的に書けるかどうかは別として)。だったら、十や百の習作を書くことに何のためらいがいるでしょう?
何十本も何百本も型に基づく修行を重ねてやがてその型を破り、最後には型を離れる。そういった当たり前のプロセスを飛び越していきなり我流の芸を披露しようとする。それで成功する人は海岸の全ての砂の中から指先にひとつまみ掬い取った分程にもいないと早く知るべきです。でないと、老境に入っても棒っきれを振り回す村のガキ大将のままでいることになります。
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choal29

Author:choal29
食べることが大好きで料理をすることも大好きなシステムエンジニアです。 料理は年々マニアックになってきていて、近頃はamazonからレシピ本など出しております。
詳しくはhttps://www.amazon.co.jp/ref=nav_logo で「五島 悠介」を検索してね。

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